奴らに気がついてしまった人間の道は三つ。死ぬか、壊れるか、戦うか
こんにちは、ぬえのです!
本日は冒険企画局謹製のTRPG「ブラッドムーン」のレビューです。
概要
全長数mの巨躯、猛獣をでたらめに合成したような驚異的な身体能力、満月の夜にのみ傷つける事ができる不死性。
都市の食物連鎖の頂点に君臨する人食いの凶獣「モノビースト」
人を傷つけ踏みにじり屈服させ、【幸福】を壊す事を最上の幸せとする蛭。
人間社会に密かに入り込み、頂点に君臨し人の血と不幸を啜る「吸血鬼」
都市の闇に潜む怪物に気がついてしまった人間の選択は三つ「得物として食われる」「発狂してすべてを忘れる」「武器を持ち、奴らと戦う」
プレイヤーは三番目の選択肢を選んだ狩人として、怪物達に立ち向かうことになります。
狩人
裏社会の組織のバックアップを受けたり、怪物の異能の一部を身につけたりもできますが、狩人は基本的には人間にやや毛が生えた程度の存在です。
大体は「獣に齧られながらも運良く生き残った」「遺伝的に目覚めてしまった」「吸血鬼の戯れで」等、ロクでもない理由により怪物との戦いを始めざるを得ない境遇が多いでしょう。
武器も棒の先端に包丁を括り付けた槍に等など手作り感溢れる装備が多いです。
そんな粗末な装備で『ライオンと虎を合体させてついでに空を飛びながら炎を吹けるようにした獣』や『廃ビルを居住に何人もの人間を洗脳して手勢に加えて準備万端の吸血鬼』
と戦うことを強いられます。
更に、怪物は他の人間の目には映らないため「真夜中に物騒な装備を振り回す危ない人」として捕まらないように銃刀法違反等にも怯えなければなりません。
狩りは過酷です。半分のハンターは初戦でそのまま死にます。
そんな過酷な環境に生きる狩人を支えてくれるものが【幸福】です。
「最愛の恋人」であったり、「故郷の町」であったり、「自分の美貌」であったりと形は人によって様々ですが
【幸福】はハンターにとって生きる目的そのものであり、【幸福】がある限りハンターの心が折れることはありません。
そして怪物達との戦いは【幸福】の壊し合いです。
ルールの特徴
セッションは「互いに因縁を結び、戦う理由付けをするオープニング」「リソースを奪い合い、【幸福】を破壊しあうミドル」「互いが消耗した状況で始まるクライマックス戦闘」
の順に進みます。
狩人と怪物は共に設定としてもデータとしても重要なリソース【幸福】を持ちます。
怪物の【幸福】は、モノビーストなら「自分のナワバリ」や「鋭い牙」吸血鬼なら「偽造会社」や「血液バンクの支配権」であったりと、NPCにとって重要なものが設定されます。
データ的には【幸福】は装甲のようなものであり、これらが破壊されると戦闘で非常に脆くなるため、互いに【幸福】の破壊を狙うことになります。
そして【幸福】はPCの設定の肝として作成するため、それらを守る・壊すシーンは非常にドラマチックで熱い展開になります。
「最愛の恋人」を破壊しようとしてくる獣、護ろうとする狩人「この恋人が如何に大事か」をシーンで演出した後の判定の結果は成否に関わらず大きく盛り上がります。
「剣の腕前」なら、吸血鬼と剣戟を交わした末にどちらが上か決めることになるでしょう。「自分の美貌」ならモノビーストに傷をつけられるかもしれません。
逆に敵の「鋭い牙」の【幸福】を破壊すれば、「モノビーストが自慢げに研いでいた牙を如何にへし折ってやったか」、「偽造会社」の【幸福】を破壊すれば「吸血鬼の陰謀をどのように華麗に暴き立ててやったか」を存分に演出できます。
まとめ
ゲーム中の行動がキャラ設定の重要な部分と結びついているため、ルール通りに遊ぶだけで自然と「自分のキャラはこんな設定で、これが大事だ」というドラマチックなシーンを楽しむことができます。
「PCにとって大切なモノが破壊される」事が度々起こるため、「如何にこれが大切でかけがえがなく命に変えて護りたいものか」を語って負けロールの起爆剤のために積んでいくと最高に盛り上がります。
RPや【幸福】の破壊以外にも敵の弱点の調査やアイテムの補充、前哨戦による襲撃など、限られた手番で効率よく敵のリソースを奪う作戦の立案等、ゲーム的なやりとりもたっぷりばっちり。
「ハンターズ・ムーン」「ブラッド・クルセイド」の前2作の世界観を基本にまったく別のルールとして構築されているため、「前作を知らないし」……という方もこれ一冊で大丈夫。
サイコロ・フィクションリプレイお馴染みの欄外の注釈やシニカルな語り口のルール説明、想像を膨らませてくれる世界観の説明等、読んでいるだけでも楽しいルールです。